CATEGORY ミントCJメール体験談

水戸駅そばのビジネスホテル。夏の茨城出張の定宿だ。設備の新しい快適なホテルなのだが、その夜は押しつぶされそうな胸騒ぎに苦しめられていた。
たかが3日、されど3日。お互いに「いいね!」をしてマッチングした意中の女性から、メッセージが届かなくなってしまったのだ。(やっぱり、だめか――)寝つけないまま、かと言って起き出す気力もなく、ベッドの上で悶々として過ごした。

すべてはFacebookから

マッチングサイトの登録にはFacebookのアカウントが必要――。彼女いない歴ウン十年。女性に奥手なアラフィフ男子は、世間のトレンドにもうとかった。我ながら本末転倒だなぁとは思う。ネットを通じた恋人さがし。ただそれだけのためにFacebookを使いはじめることにした。

マッチングサイトはPairsとOmiaiとミントCJメールで悩み、最終的にミントCJメールを選んだ。じつはそれ以前にも、出会い系のアプリならいろいろ試していた。かつて一度も経験のない、一夜限りのアバンチュールを期待して。でもすぐに、出会い系の多くは新手の風俗にすぎない、と気づいた。それなりにドキドキ感を味わえるが、いま求めているのはこれじゃないと。

「いきなり婚活」の憂うつ

ミントCJメールは、どちらかと言えば婚活寄りのマッチングサイトだ。出会い系でふらふらしていた頃は、正直、一人の女性とまじめに向き合う覚悟がなかったと思う。まして結婚などは意識しなった。その点、ミントCJメールはまるでちがう。Facebookと連動していて、顔写真がはっきり出る。acebookの友達数だってしっかり表示されるのだ。(いきなり婚活か……)
そんなやるせない思いが、なかったわけじゃない。結婚なんか意識しない、ただ互いを求めあう刺激的な恋愛だってしてみたかった。

しかし、ここは腹をくくろう。いつになくまじめな気分で、ミントCJメールでのパートナーさがしが始まった。

オジサンにはオバサン

この手のサイトならどこでもそうだが、無料会員にできることは限られる。ただ、「それもまた良し」と思える心がまえができていた。1か月の利用料だってばかにならない。だが、つまりはだれもが身銭を切って、真剣にお相手さがしをしている。そう思うと、気持ちが引きしまった。最初なじめなかったのが、「本日のおすすめ」として紹介される女性のラインナップ。当たり前のことなのだが、アラフィフの独身男性には、アラフィフの独身女性がまず候補としてあてがわれるわけで……。(なんだ、オバサンばっかじゃないか!)白髪頭のオジサンが、自分のことは棚に上げ、失礼な不満をくすぶらせた日もあった。

いいね!がだんだん大胆に

使い始めてふた月ほどたつと、もらった「いいね!」もそれなりに増える。人気会員だなんてお世辞にもくすぐったいが、「いいね!」の数だけで言えば、男性会員の中で上位10%に食い込むくらいにはなっていた。いきおいマッチングの回数も増え、メッセージのやりとりまでなら容易に進む女性会員も増えてくる。

30代前半の美人看護師とマッチングしながら、どうにも会話がかみあわず、こちらから丁重にお断りする、なんてことさえあった。趣味嗜好が異なると、こんなにコミュニケーションが難しいのかと思い知らされた。

運命のひとは外国人

そんな折、うら若き一人の女性に目が留まり、心奪われた。Nさんは20代後半のベトナム人女性。日本人と言われてもすなおに納得してしまう顔だち。プロフィールには、千葉県在住で、会社勤めをしているとある。ベトナム人女性は美人が多く、男性に尽くしてくれる――。

そんな記事をネットで見た記憶があった。性格まではわからない。だが、噂にたがわず、Nさんはとてもかわいらしい女性だった。(まあ、さすがにね。マッチングは、ないよな……)

色白で、小柄で、ショートヘア。目がぱっちりして、そして、笑顔がさわやか!(こんな女性と、つきあえたら、最高だ)月額料金とは別にポイントを購入し、渾身のメッセージ付きいいね!を送った。Nさんから、すぐに足あとはついた。でも、その後ひと月、まるで音沙汰なしだった。(足あとすら、さっぱりつかないか……)

予想できたことでもあり、ショックはなかった。ただ残念だった。Nさんの自己紹介文にある「日本に住みたいと思っています」のひと言が、残されたわずかな望みだった。

自炊中の着信

雨もよいの土曜日。それは突然やってきた。仕事が休みの日は自炊することにしている。義務感からではない。これでも料理男子のはしくれなのだ。チキンカレーの下ごしらえのさなか、Nさんからのいいね!が届く。「いいね!ありがとうございます! とにかく、すごくうれしいです! よろしくお願いいたします!!」ありきたりではあるけれど、心からの返信メッセージを送った。

こちらこそ、よろしくお願いいたします

よどみない日本語のメッセージ。ごくふつうの定型のあいさつ文が、Nさんからもらうと、心のこもった温みのある文章に思えてならなかった。交際どころか、メッセージの交換が始まったにすぎないのだが、(会うところまでは行けるだろうか?)そう考えるだけで、そわそわ落ち着かなくなってきた。

メッセージが途絶えた3日間

それから、日常のことや仕事のこと、こまごました他愛もないことで、メッセージを交換する幸せな日々が続いた。「ベトナムの夏はもっと暑いですよ」母国でみっちり日本語を学んだNさんのつづる文章は、驚くほど巧みで、いつも驚かされたものだ。日本に来てまだ3年だという。会社の寮に一人住まいだということも知った。

「自炊してるの。えらいね」

です・ます調から、くだけた言い方へ。それだけのことで、少しずつ距離が縮まっている気がして、むしょうにうれしかった。

「外食が多いかな」

7月の終わり、マッチング成立から10日ほどたった日のこと。Nさんから、自分は和食が好きだという話題が出た。(これは食事に誘うチャンス!)

そう思いついて、ネットで下調べを始めた。ちょうどその頃だ。毎年恒例の茨城出張に出向いたのは。

……そして、あの悶々と過ごすホテルの夜になる。毎日届いていたメッセージがぷっつり途絶えてしまった。そう言えば、少し元気がないと言うか、レスポンスが遅く、ことば数の少ない日が続いていたっけ。

彼女の気持ちの変化に気づけなかった。

希望を持つから、つらくなる。

マッチングしたことさえ恨めしく思う自分がいた。

そして運命はつづく水戸からの帰り、スーパーひたちを待つ駅のホームで、3日ぶりにNさんからメッセージを受け取った。

のちに知ることになるが、彼女は片頭痛持ちである。気候の変化で、重い症状に苦しむ時がよくある。

「頭いたくて、寝てました」

あっさりと状況を伝えるそのことばに、思わず涙ぐみそうになった。(運命のひとだ)

あまりに唐突な思い込みだけれど、彼女とはいつか必ず会える、そんな気がしてならなかった。

その後、食事に誘い、デートを重ね、いまも交際はつづいている。年の差、じつに19歳。しかも、外国人。しかも出会いは、マッチングサイトである。
いろいろイレギュラーな気もするが、交際が始まってみれば、何もおかしなところはない。

ケンカもすれば、仲直りもする。どこにでもいる、ごくふつうのカップルなのだ。この出会いに導かれたことに、今はただただ感謝している。これからも、ごくふつうのカップルであり続けたい。

彼女の肩をマッサージしながら、ハノイ行きの便を待つ成田空港の出発ロビーで、そう強く願った。